考え方の働きを、研究と体験から
仕事の見方を、
広げる。
同じ場面にも、
まだ確かめられることがある。
何に注目し、どう捉え、何を試すか。
三つの仕事場面と七つの研究から、
次に確かめる一つを見つけます。
01 / 同じ場面を、違う見方で
今、気になる場面から。
まず確かめたいことを選び、別の見方や新しい事実と比べます。
02 / なぜ、考え方が重要なのか
行動の選び方と、
経験から学べることが変わる。
ここでは考え方を、何を大切にし、どの事実に注目し、どう判断し、結果から何を見直すかという、物事の捉え方として扱います。
「後輩が作業を止めた」という事実からも、手順、判断材料、任せる範囲など、確かめる先は複数あります。何の問題として捉えるかによって、使う知識や選ぶ支援が変わります。そして、何を問い、何を試すかによって、得られる情報も変わっていきます。
- 01目的
誰の、どの状態を
目指すか - 02注目
何を見て
確かめるか - 03捉え方
何が起きていると
考えるか - 04行動
どの案を選び
何を試すか - 05反応
何が起き
何を見直すか
得られた反応から、見るところ・捉え方・目的も確かめ直す。
仕事の知識、時間、権限、道具、周囲の支援も、この往復を支えます。
このつながりは、以下の研究を手がかりにした本ページの実践上の整理です。それぞれの研究が調べた範囲を確かめながら、仕事に当てはめます。
何を成果とするかも、確かめる。
説明を終えたこと、本人が使えたこと、その仕事を受け取る相手が進めたこと。それぞれに確認する事実があります。誰の利益と負担まで見るかを、仕事の目的に含めます。
方法を良くする。価値も問い直す。
今求められる価値を、より確かに届ける。相手の工夫から、新しく役立つ可能性を探る。見えた事実に応じて、続けることと、見直すことを選びます。
03 / 研究から、仕組みを理解する
考え方は、仕事のどこに働くか。
七つの研究を、比較から読む。
仕事の意味をどう捉えるか。何を見て、どう判断するか。学んだことを次にどう使うか。七つの研究で比較された条件と結果を、図からたどれます。仕事で使う問いは、それぞれの知見を踏まえた実践への提案です。
研究 01 / 誰に役立つ仕事か
仕事が誰に役立つかを知ると、取り組みは変わるか。
- 対象
- 大学の寄付募集を電話で行う担当者33人。図は実験1。
- 比較したこと
- 奨学生への利益を伝える体験談/自分への利益を伝える体験談/質問紙への回答。
担当者1人あたり・1週間の寄付の約束件数の平均。介入前と、1か月後の各1週間を比較しています。
奨学生への利益を読む
12人 / 奨学金が生活に役立った体験談
自分への利益を読む
10人 / 仕事がキャリアに役立った体験談
質問紙に答える
11人 / 体験談を読む介入は行わない
相手への利益を知った群では、前後の変化が大きかった。
Grant (2008), 実験1・Table 1, p.113。棒の共通範囲は0〜25件。人数は計33人。平均値を示し、開始時の値は群ごとに異なります。
結果から分かること
奨学生の体験談を読んだ群では、寄付の約束件数と金額が増えました。時間による変化は三群で異なり、ほかの二群の前後差は統計的に有意ではありませんでした。
仕事で使うなら
目標の数字とともに、その仕事が相手の何を可能にしたかを、具体的な事実から共有することが考えられます。
この仕事の先で、誰が何をできるようになりますか。その変化を、どの事実から確かめられますか。
適用するときの確認点
小規模な職場研究で、開始時の成績にも群間差があります。長期持続や全職種での効果、何を善い目的とするかまでは、この研究から決まりません。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
担当者を3条件へ割り当て、体験談を読む群では2話を読んで担当者同士で話しました。受益者本人との対面はありません。前後の業務記録を比較しています。別の2実験ではライフガードと新任の寄付募集担当者を調べ、個人の特性・価値観による違いも検討しています。
Grant, A. M. (2008). The Significance of Task Significance: Job Performance Effects, Relational Mechanisms, and Boundary Conditions. Journal of Applied Psychology, 93(1), 108–124.
DOI: 10.1037/0021-9010.93.1.108
研究 02 / 見るところと、学ぶこと
何を見るかと、何を学ぶかは、どう関わるか。
- 対象
- 分析対象25人。三種類の画像を組み合わせた選択課題。
- 比較したこと
- 注意が選択だけ、学習だけ、両方に関わるモデルなどを比較。
三つの選択肢の構造
顔・名所・道具を組み合わせた画像から、一つを選ぶ課題。
得点の手がかりは一つの種類
たとえば「道具」の中の特定の画像が、得点につながりやすい。
選ぶ → 得点の有無を知る
この試行を繰り返す。
顔・名所・道具の
どこを見るか
何を選び、結果から
どの特徴の価値を更新するか
Leong et al. (2017), Figure 1・モデル比較に基づく簡略図。A〜Cは画像の区別を示す記号。矢印は研究が示唆する双方向の関係。
結果から分かること
注意を向ける先が選択と学習の両方に関わるモデルが、行動データをよく説明しました。得点の経験に応じて注意の向け先も変わり、双方向の関係が示唆されました。
仕事で使うなら
結果を振り返る際に『何が起きたか』とともに、『自分はどこを見ていたか』も確かめる方法が考えられます。
相手の反応のうち、見ていたことと、まだ見ていないことは何ですか。
適用するときの確認点
限られた実験課題での計測とモデル分析です。職場の複雑な関係や成果を直接検証したものではなく、注意と学習の因果をあらゆる場面で確定するものでもありません。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
顔・名所・道具を組み合わせた三つの画像から一つを選び、得点の有無を知る課題。得点の手がかりとなる種類と画像は25試行ごとに変わりました。視線・脳活動・選択を記録し、複数の学習モデルを比較しています。
Leong, Y. C., Radulescu, A., Daniel, R., DeWoskin, V., & Niv, Y. (2017). Dynamic Interaction between Reinforcement Learning and Attention in Multidimensional Environments. Neuron, 93(2), 451–463.
DOI: 10.1016/j.neuron.2016.12.040
研究 03 / 問題の捉え方と、使う知識
何の問題と捉えるかで、使う知識は変わるか。
- 対象
- 実験1は、物理の博士課程学生8人と、力学を学んだ学部生8人。
- 比較したこと
- 同じ24問を、解き方が似ていると思うもの同士に分類し、理由を説明。
原論文の分類例から
初心者の分類例
登場する物体・配置に注目
熟達者の分類例
解くための原理に注目
③を何と同じ問題と見るかが、違っている。
Chi et al. (1981), 実験1・Figures 1–2の一部を整理。分類の傾向を示す例で、全員が同じ分類をしたという意味ではありません。
結果から分かること
熟達者は背後にある物理原理、初心者は登場する物体などの表面的な特徴を手がかりにする傾向が示されました。問題の捉え方と知識の整理のされ方が結びついていました。
仕事で使うなら
出来事を『手順』『判断材料』『任される範囲』など複数の観点から見て、必要な知識や支援を探すことが考えられます。
いまの出来事を、何の問題として捉えていますか。別の捉え方はありますか。
適用するときの確認点
物理という特定領域での熟達者・初心者の比較です。知識や経験の違いも含まれるため、考え方だけの独立した効果や、あらゆる仕事への転用は示していません。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
四つの実験で、問題の分類・説明と、関連する知識のまとまりを検討。実験1は24問の分類を二度行い、分類の理由を説明しました。問題そのものを解く課題ではありません。
Chi, M. T. H., Feltovich, P. J., & Glaser, R. (1981). Categorization and Representation of Physics Problems by Experts and Novices. Cognitive Science, 5(2), 121–152.
DOI: 10.1207/s15516709cog0502_2
研究 04 / 案の示し方と、選択
同じ内容でも、示し方で選ぶ案は変わるか。
- 対象
- 学生を中心とする回答者。図では152人と155人の二群。
- 比較したこと
- 結果と確率が等価な対策を、助かる人数/亡くなる人数で提示。
原研究の仮定の課題:対策を取らなければ600人が死亡すると予想される状況で、二つの対策から選ぶ。
助かる人数で示す
回答者 152人
- 確実な案
- 200人が助かる
- 確率で結果が変わる案
- 1/3で600人が助かり、
2/3で誰も助からない
亡くなる人数で示す
別の回答者 155人
- 確実な案
- 400人が亡くなる
- 確率で結果が変わる案
- 1/3で誰も亡くならず、
2/3で600人が亡くなる
200人が助かることと、400人が亡くなることは、この課題では同じ結果。
Tversky & Kahneman (1981), Problems 1–2, p.453。棒は各案を選んだ人の割合(0〜100%)。同じ人の選択前後ではなく、異なる回答者群の比較。
結果から分かること
助かる人数で示した群では確実な案を選ぶ人が多く、亡くなる人数で示した群では確率で結果が変わる案を選ぶ人が多くなりました。選択肢の内容をそろえても、表現によって選ばれ方が異なった点が重要です。
仕事で使うなら
提案を比べる際には、対象・期間・増減の基準をそろえ、得られるものと生じる負担の両方を確かめることが考えられます。
同じ案を、得られるものと必要な負担の両方から見ていますか。
適用するときの確認点
特定の選択課題での結果です。前向きな表現が常によい判断を生むことや、相手に役立つ目的そのものを検証した研究ではありません。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
学生を中心とする回答者に、金銭や政策に関する選択問題を提示。結果が等価な選択肢を、利益・損失など異なる表し方で示し、選択を比較しました。
Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The Framing of Decisions and the Psychology of Choice. Science, 211(4481), 453–458.
DOI: 10.1126/science.7455683
研究 05 / 相手の見方を、本人に確かめる
相手の立場を想像すると、相手の考えが分かるか。
- 対象
- 恋人・夫婦104組。各組の1人が相手の意見20項目を予測。図は実験25。
- 比較したこと
- 自分が最善と思う方法/相手の一日を想像/本人との会話(全項目・半数の項目)。
各組の1人が相手の意見20項目を予測し、本人の回答と照合。7段階の回答で測った、予測と本人回答の平均的なずれ(点)で、小さいほど本人の回答に近いことを表します。
会話した項目
本人の考えについて、新しい情報を得る。
予測の精度が上がった会話していない独立した項目
半数だけ聞く条件で、残りの項目も調べた。
対照群より正確になったとは認められなかったEyal et al. (2018), 実験25・Table 14, pp.564–565。104組。棒は平均絶対差(表示範囲0〜2点)。正答率ではありません。会話では意見を言葉で聞き、その後に数値の回答を予測。
結果から分かること
本人に聞いた群は予測がより正確でした。半数の項目を聞いた群で精度が上がったのは、主に話した項目。想像する指示による精度向上は認められませんでした。
仕事で使うなら
想像した理由を仮説として持ち、判断に必要な条件を本人に確かめる進め方が考えられます。答えやすい問いと場を用意することも、実践上の確認点です。
「きっとこう考えている」と思った点のうち、どれを本人に確かめると、次の対応を決められますか。
適用するときの確認点
測ったのは意見の予測精度で、共感や配慮の価値全般ではありません。職場では、本人が答えにくい条件や、言葉と実際の行動の違いも確かめる必要があります。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
想像する群は相手の一日を5分で書き、会話する群は5分で指定された項目への意見を聞きました。その後、別の場所で本人の回答と予測を7段階(−3〜+3)で照合。論文全体は25実験ですが、直接質問する条件を比較したのは実験25です。
Eyal, T., Steffel, M., & Epley, N. (2018). Perspective Mistaking: Accurately Understanding the Mind of Another Requires Getting Perspective, Not Taking Perspective. Journal of Personality and Social Psychology, 114(4), 547–571.
DOI: 10.1037/pspa0000115
研究 06 / 経験の共通点と、別の場面への応用
学んだことを、見た目の違う問題にどう使うか。
- 対象
- 98人。全員が二つの話を読み、要約と共通点を書いた実験4。
- 比較したこと
- 同じ解法構造をもつ二話/その構造をもつ一話と無関係な一話。
全員が「二話を読む → 要約・共通点を書く → 別の問題を解く」の順で進みました。
同じ解法構造をもつ二話
51人
どちらも、力を分けて複数方向から同時に集める話。
対応する一話と、無関係な一話
47人
同じ進め方を使う話は、二話のうち一つ。
題材が変わっても、対応する関係
共通の制約 大きな力が必要だが、一方向からまとめて使えない。
軍事・消防の話 力を小分けにし、複数の方向から同時に集める。
その進め方を、別の文章問題へ
放射線の問題 弱い線を複数方向から同時に集める解法を出せるか。
Gick & Holyoak (1983), 実験4・Table 5, pp.22–23。構造の対応はTable 1, p.7。棒は先の話を使うヒントが出る前の割合(0〜100%)。課題の構造を簡略化して表示。
結果から分かること
ヒント前に対応する解法を出した割合は、同じ解法構造の二話を読んだ群で45%、対応する一話と無関係な一話を読んだ群で21%でした。解法に関わる共通点を表せた人ほど、後の問題も解きやすいという関連がありました。
仕事で使うなら
複数の経験を、目標・条件・進め方で比べる方法が考えられます。見た目が似た事例をそのまま使う前に、結果に関わる条件が今回もそろっているかを確かめます。
二つの経験で、結果に関わった条件と進め方の何が共通しますか。今回も、その条件はそろっていますか。
適用するときの確認点
短時間の文章課題です。両群が共通点を書いているため、比較することだけの効果とは言えません。無関係な話との共通点を探すことが、妨げになった可能性もあります。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
二話を読み、話を参照しながら要約と共通点を書いた後、放射線の文章問題を解きました。先の話を使うヒントの前後を別々に評価。二話の群は同じ領域28人と異なる領域23人を、成績に有意差がなかったため統合しています。
Gick, M. L., & Holyoak, K. J. (1983). Schema Induction and Analogical Transfer. Cognitive Psychology, 15(1), 1–38.
DOI: 10.1016/0010-0285(83)90002-6
研究 07 / 判断する練習と、その後
比較して次の行動を決める経験は、その後に残るか。
- 対象
- 大学の物理実験。介入群・前年度の比較群は各約130人。
- 比較したこと
- データを比べて方法を改善する授業と、従来の授業。
比較と判断を繰り返す授業
測定する → データを比べる → 改善案を選ぶ → 測り直す
分析道具、他の班との相談、評価も含めて支援。
前年度の授業
同じ一連の物理実験に取り組む。
比較に基づいて改善する反復への指示・評価はない。
- 第2週改善するよう促す
比較と改善の練習を、指示とともに行う。
- 第16・17週明示的な指示を外す
介入群の半数超が、改善を提案または実施。
- 翌年別の物理実験で確かめる
進級した約3分の1でも、群間の差が見られた。
Holmes et al. (2015), Figures 1–4・本文の時間順を整理。介入群と前年度の比較群は各約130人。翌年は全員の追跡ではありません。
結果から分かること
指示がなくなった後も、自ら方法を改善したり、データから理論の限界を説明したりする記述が多く見られました。翌年の物理実験に進んだ一部の学生でも差が確認されました。
仕事で使うなら
事実と予想を比べ、次に試すことを自分で選び、その結果を確かめる機会を、支援とともに繰り返し用意することが考えられます。
予想と実際の違いから、次に何を試し直しますか。
適用するときの確認点
前年度の群との比較で、無作為割付ではありません。指導・練習・評価・分析道具を含む授業の結果であり、一つの問いや短い体験だけの効果には置き換えられません。
詳しい方法と、原典を読む
研究の方法
大学の物理実験で、データ同士やデータと理論を比較し、方法を改善する授業を実施。各約130人の受講者群を前年度の授業と比べ、実験ノートや報告書を分析しました。
Holmes, N. G., Wieman, C. E., & Bonn, D. A. (2015). Teaching Critical Thinking. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(36), 11199–11204.
DOI: 10.1073/pnas.1505329112
研究の知見を、自分の仕事で確かめる。
七つの研究は、仕事の意味、注意、問題の捉え方、選択、相手の理解、別の場面への応用、判断の練習を、それぞれ異なる対象・方法で調べています。本ページの体験は、その知見を仕事で考えるための提案です。
実際の仕事では、知識や担当者、時間、使える道具など、ほかに変わった条件も残しながら、判断の過程と相手に生じた変化を確かめます。新しい事実に応じて、使った見方や方法も更新していきます。
04 / 読んだことを、仕事の一件へ
次に、どこを確かめますか。
一度の仕事で、確かめることを一つ選ぶ。試した後の反応から、見方や方法をもう一度見直します。
